2017年7月24日

経営者層にこそ、ストレスマネジメントが必要である(宮川浩一)

従業員のメンタルヘルス対策への取り組みが活発になる一方で、経営者層のストレス問題は見落とされがち。健康経営のカギとなる経営者層のストレスマネジメント方法を解説いたします。

1. 経営者(管理職)に求められるストレスマネジメントとは?

従業員のメンタルヘルス対策への取り組みのひとつとして、2015年12月より労働安全衛生法の一部改正による「ストレスチェック制度」がスタートしましたが、見落とされがちなのが、経営者層のメンタルヘルスです。

経営者層は組織のリーダーとして強い者であるべきという意識が自分自身や周りにもあり、実はこれが落とし穴になっているのです。職業性ストレスモデルの一例である「仕事の要求度-裁量度モデル」。経営者層は仕事の要求度が高くても裁量度が高い、つまり意志決定の自由度が高いと考えられるので、本来は従業員に比べストレス度は低いと思われがちです。しかし、従業員に比べてストレスのプレッシャー度ははるかに高く、かつ相談できる人が少ないなど、孤独な状態が経営者層のストレスの特徴といってもよいかもしれません。

どんなに強い人でも、過度なストレス状態で憂うつ感や不安感といった気分が継続している場合は、うつ病などのリスクが考えられます。うつ状態だと正常な思考が行えなくなり、経営者層としての適切な判断や意思決定に大きな支障をきたすことになります。

最近、「キラーストレス」という言葉を耳にするようになりましたが、過剰なストレスは精神症状だけではなく、脳を傷害し、死に至る場合があるという研究も紹介されています。このようなことからも、ストレスはため込まない、コーピングする(ストレスを緩和したり、原因を取り除いたりすること)などの対処が求められます。多大なプレッシャーにさらされる経営者層こそ、ストレスマネジメントを実践することが重要だといえるでしょう。

2. ストレスに気づくための「3つのサイン」

ストレス状態が過度に進むと、極度の肩こりのように自覚することが難しくなります。早期に気づいて対処することが必要です。

ストレスはさまざまな現れ方をしますので、日頃から「3つのサイン」を意識することが重要です。不眠や疲れなど「体のサイン」、イライラ感や抑うつ感など「心のサイン」、ミスが増える、人を避けるようになるなどの「行動のサイン」です。最近はITデバイスなどを活用し、自分の体調やメンタルをデータで確認・管理できるITツールも進化していますので、そうしたヘルスケアサービスを活用することも、早期の“気づき”を得る方法のひとつです。

サインに気づいたら、意識的に改善を試みましょう。体のサインには睡眠、バランスのとれた食事、休養するなど生活改善が必要です。また、心のサインや行動のサインであれば、ストレスコーピングすることが有効でしょう。

ここで、最近注目されているストレスコーピングの一部をご紹介します。

(1)ビリーフチェンジ(認知の再構成)

状況に対する考え方や見方に偏りがあるかチェックし、これに気づき、適応的な考え方ができるようにし、ネガティブな感情を軽減します。
 

(2)アンガーマネジメント

怒りの感情はストレスを増幅します。アンガーマネジメントは「衝動のコントロール」、「思考のコントロール」、「行動のコントロール」を通じて不要な怒りの感情を低減させるストレスマネジメント法です。
 

(3)マインドフルネス

アメリカの大手有名企業でも盛んに導入されていますが、瞑想を取り入れたトレーニングです。リラックスした状態で呼吸をしながら、「今」に意識を集中させます。これを1日5分~10分程度でもいいので継続することで、不安感や抑うつ感などのストレス軽減や集中力の向上に効果があるとされています。

3. ストレスマネジメントを習慣化する方法とは

ストレスのサインに自分自身で気づくこと、ストレスのサインを感じたらストレスコーピングを行うことを繰り返せば、自然とストレス対処能力が高まります。困難な状況でも的確な判断や対応を求められる経営者であれば、ぜひ身につけておきたいスキルです。

では、ストレス対処能力とは具体的にどんなものなのでしょうか。メンタルヘルス用語に、「レジリエンス」「ハーディネス」「首尾一貫感覚(SOC)」という言葉がありますが、どれも人間の持つ「柔軟な心の強さ」、「しなやかな強さ」、「逆境力」などを意味する概念で、ストレス対処能力を表す言葉でもあります。

レジリエンスを高める要素として以下の5つが挙げられます。

「楽観性」、「自尊感情」、「自己効力感」、「感情コントロール」、「人間関係」です。経営者層は概ね「楽観性」、「自尊感情」、「自己効力感」は高い傾向にありますが、「感情コントロール」がうまくできない方が多いようです。心の柔軟性、すなわちストレス対処能力を高めるためにも、ストレスマネジメントを習慣化することをおすすめします。

先ほどご紹介したストレスコーピングのほかにも、ストレッチで体をほぐしたり、スポーツをしたり、好きなことや楽しいことをしたりするのも有効です。ストレスを自覚して、意識的に気分転換をはかるのがコツ。自分にあったストレスコーピングの方法をいくつか知っておくとよいでしょう。

4. 経営者層のストレスマネジメントが、健康経営につながる

仕事をするうえでは、だれもが多少なりとストレスを感じているものです。大切なのは、ストレスを見過ごさないこと。ストレスマネジメントを日々実践すれば、ストレスから受ける影響をコントロールすることも可能になります。

ストレスの悪影響は、個人の不調にとどまりません。企業の業績にも関わる大きな問題が潜んでいるのをご存知でしょうか。

近年、労働経済学や医療経済学の観点から、「プレゼンティズム・アブセンティズム」問題が取り上げられています。「プレゼンティズム」は、出社していても体調不良で思うように業務がこなせない状態のこと。「アブセンティズム」は欠勤や休職で業務に就けない状態を言います。どちらも生産性を低下させる要因であることには変わりありませんが、アメリカの研究では「プレゼンティズム」の経済的損失は「アブセンティズム」の数倍になるといわれています。

経営者層はメンタルに起因する不調に対して自覚に乏しく、無理を重ねてしまいがちですが、重要な判断を行う立場だけに、プレゼンティズムによる損失は従業員以上に甚大です。経営者自身がストレスマネジメントに取り組む意義は大きいといえるのではないでしょうか。

また、経営者層が率先して心身の健康管理に留意すれば、従業員を含めた企業全体の健康管理意識も高まり、ひいては「働き方改革」の基盤にもつながることが期待できます。企業のメンタルヘルスケアは、コストがかかるものというより企業業績を継続的に向上させていく重要な取り組みであり、健康経営の実践にもつながるものなのです。

著者:宮川 浩一(みやがわ・こういち)(株)ネオシステムEAP事業部長 国際EAPコンサルタント(CEAP)
組織開発や職場環境改善を通じた0次予防のメンタルヘルス対策を推進。組織コンサル、経営者・従業員へのコーチング・カウンセリング、企業研修・各種セミナー等を通じたEAPサービスを提供している。また、筑波大学大学院においてストレスマネジメント研究に携わり、現在もストレス対処能力を醸成する中核概念であるSOC(首尾一貫感覚)の介入研究に取り組んでいる。

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