2020年5月19日

ウイルスの猛威から企業とヒトを守る「テレワーク」

新型コロナウイルス感染症対策と事業継続(BCP)の実現手段としてテレワークが注目されています。日本テレワーク協会の客員研究員の椎葉怜子さんにうかがいます。

1.  事業継続(BCP)と従業員の命を守る、非常時のテレワーク

現在(2020年4月)は、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症対策(以下、コロナ対策)の一環としての事業継続(BCP)と、従業員の生命を守るための在宅勤務を実現するための手段として、「テレワーク」に注目が集まっています。

非常時のテレワークは、BCP対策としての意味が大きいといわれています。2011年の東日本大震災の際には、地震と余震が長期間続き、従業員は出社できない状態となり、まとまった電力も使いにくい状況が生まれました。当時、従業員はいかに出社することなく、 仕事をするかが求められ、その手段として、テレワークに注目が集まりはじめました。

2018年9月に西日本を襲った台風21号は、過去25年間で最大級の規模で、120万人以上が避難勧告を受けました。また、2019年9月の台風15号、10月の台風19号は、東海、関東地方を中心に激しい雨を降らせ、河川の氾濫や土砂災害など、大きな被害が広範囲におよびました。次々と大都市圏を襲う巨大台風の気象予報を受けて、鉄道各社は大規模な計画運休を実施しました。運転再開の遅れなども発生し、出勤できない人が駅にあふれる状況が発生し、移動中の負傷や街中での混乱を防ぐため、「台風テレワーク」が推奨されました。

インターネット上では「この状況で出社する必要があるのか?」ということも議論になり、いつになるかわからない交通機関の復旧を待ち続ける通勤者のなかには、「出勤せずに自宅で仕事ができれば」と思った人も多かったのではないでしょうか。出社を強いる日本の古い働き方の慣習からの脱却の必要性と、交通混乱に左右されない仕事のやり方としてのテレワークの重要性が身をもって実感されたのは、これらの災害時でした。

日本国内では2020年の2月頃から、一部の企業ではコロナウイルスの感染が広まる可能性を考え、テレワーク(在宅勤務)を推進しています。そして、2020年4月7日に政府より出された緊急事態宣言により、企業で働く人には可能な限りテレワークが求められる状況となりました。

平常時のテレワークは、従業員が自発的に利用して、ワークライフバランスを実現し、Web会議や移動時間を減らして効率的に仕事をするものなので、コロナ対策のためのテレワークは、非常に特殊なものと言えます。子どもなどの家族が在宅している家庭環境での比較的限られた時間での勤務で、週に1~2回程度おこなうことを想定していた在宅勤務が、1か月以上もの間、しかも自分の意志ではなく、いつまで続くかの予想もできないほど長期間続くという、予想できなかった状況に直面しています。これまでに、日本だけでなく、世界の誰もが経験したことがない特殊な働き方が続いているのです。地球規模でのテレワークの実証実験がおこなわれているのです。

このような非常時のテレワークの場合には、生産性の向上を見込むことは困難だと考えられます。また、仕事と子育てなどの両立もかなり難しいと言わざるを得ません。感染リスクを下げて従業員の命を守ることと、その結果としてのBCPが優先されることになります。

2.  テレワークが難しいと思われる業種でも成功した事例

製造業での工場の生産ラインや、医療・介護、保育など、人との物理的な接触がある現場では、仕事を100%ロボット化しない限り、テレワークに置き換えることは困難です。また、IT部門のシステム管理者、システムエンジニア、顧客に常駐するコンサルタントなどは、情報管理(セキュリティ)面からテレワークが難しいという課題を抱えています。

建設業の工事現場での業務も、一般的にはテレワークに置き換えることが難しいと思われます。しかし、工事現場にサテライトオフィスのような場所を作って、書類作成や業務報告・指示にテレワークを活用した事例もあります。

工事現場におけるテレワークを限られた予算で実現
向洋電機土木株式会社(建設業:横浜市)では、クラウド型のファイル共有サービスなどを利用して、あまりコストをかけずに、現場と会社との間での情報共有を実現しました。現場の担当者は、スマホのカメラを使って工事現場を撮影し、社内にいるシニアの社員からリアルタイムでアドバイスや指示を受けられるようになりました。

最初は担当者一人が実験台となって試行を開始し、徐々に利用する社員を増やすという形で、テレワークを段階的に拡大した同社では、本社にある工事進捗管理、資材管理、仕様書作成などの業務システムを社外から利用できるようになり、分厚いバインダーを現場で持ち歩く必要が無くなりました。また、残業時間の9割を削減し、売上が2倍になるなど、労働生産性が大幅に向上しました。

会社に立ち寄ってから工事現場に行ったり、会社に寄ってから自宅に戻ったりせずに、自宅から工事現場へ直行・直帰することで、現場の担当者の移動時間と残業が減少。当然、車の移動距離も減少するのでガソリン代などの交通費や会社の光熱費まで削減できるというよいことずくめの結果となりました。その上、短縮された労働時間を資格取得などに振り向けられたので、より価値の高い案件に入札することもできるようになりました。

テレワークがもたらした成果は、経済的なメリットだけではありませんでした。従業員の肉体的・精神的なストレスが大幅に軽減された結果、育児や介護が理由による退職を防ぎ、優れた人材を確保することにも成功し、従業員は10年前の20名から38名に増え、たった1名だった女性従業員も13名にまで増えました。

3.  テレワークの導入が難しいと考える中小企業の経営者の意識

大企業では、2017年頃から働き方改革の一環としてテレワークが推進され、オフィスのフリーアドレス化(働くための席が固定されない仕組み)に対応するために、ノートPC導入などのIT環境が整っている企業がほとんどです。しかし、大企業でもテレワークの経験がない従業員は多かったのですが、コロナ対策のために実際に経験した従業員が増えています。
IT環境面では、従業員のノートPCに重要なデータが残らない、仮想デスクトップ機能などを搭載したノートPCが配布済みの企業も多く、テレワークの実行が容易なIT環境が整っている企業が多いと見られます。

中小企業では、テレワークの導入が、予算的に難しいと考える経営者は多く、大企業に比べて導入が遅れています。テレワークのために必要な初期投資が高額になると思い込み、実は思ったよりも安価に導入できることに気づいていない経営者が多いことが最大の課題です。また、テレワークに適した業務がない(テレワークができない)という思い込みも相当あると感じます。

中小企業において、テレワークができないという状況を整理すると、下記のような状況が見えてきました。
1) 経営者が、何となくできないと思い込んでいる。(検証していない)。
2) 紙ベースの業務が多く、情報が従業員間で共有されない。
3) 紙のタイムカードによって労働時間が管理されている。

実は、経営者の「思い込み」と、「紙」の存在がネックになっていたのです。ペーパーレス化が遅れている中小企業では、まずは、ペーパーダイエットからおこなうことが有効です。紙をスキャンして共有サーバーにアップすることを徹底して、さらにセキュリティ面を考慮すれば、自宅のPCからデータにアクセスできるようになり、オンラインでの情報共有が一気に進み、テレワークが可能になります。

紙のスキャン作業や、セキュリティの強化を実現し、テレワークを開始するためには、自社の運用実態に合ったツールの比較検討が必要不可欠です。ツールに関する有益な情報が手元にないので、ツールを調べずに、何となく高額の投資が必要だと思い込んでしまい、テレワークが浸透していないのが中小企業の実態です。

また、紙のタイムカードで労働時間を管理している中小企業が圧倒的に多いのです。在宅勤務をおこなうと、タイムスタンプができないので、従業員が本当に働いているかどうかわからなくなることは、経営者にとっての大きな不安です。情報共有の機会が減少し、労働時間もわからなくなると、従業員がさぼるのではないかと不安になるのです。その不安を払拭できる仕組みの確立が、テレワーク実現のために必要不可欠です。

一般社団法人日本テレワーク協会 客員研究員 椎葉怜子氏

一般社団法人日本テレワーク協会
客員研究員

椎葉怜子氏

数多くの中小企業が、このような不安を払拭し、テレワークを成功させています。労働時間の管理なら、スマホやPCから出社・退社時刻を打刻でき、GPS機能によって居場所も管理できる労務管理システムを利用することが考えられます。このようなシステムであれば、育児時間などによる労働時間の中抜けについても管理できます。従業員1人あたり月額数百円程度で使えるクラウド型サービスは、機能が揃っていて使いやすく、リーズナブルなコストで、会社以外の場所での労務管理が可能になります。

従業員とのコミュニケーションについても、多種多様なビジネスチャットツールによって、スマホを使った(挨拶文や宛名の入力などなしに)要点だけの素早いやりとりができます。また、離れた場所からでもWeb上での会議に参加できるツールが多いので、メール・電話・会議に代わって、社内外におけるリアルタイムのコミュニケーションを活性化させ、テレワークの生産性を向上させる重要な手段となります。

また、クラウド型サービスの多くは、1か月程度の無料のお試し期間が多いことも特徴です。少しの間でも使ってみると、そのツールの効果を実感することができます。また、お試しの結果により、自社に合わないと思えば止めればよいのです。このようにして、自社の運用にピッタリ合ったツールを選ぶことができるようになっています。

4.  投資総額の抑制が可能なクラウド型サービス

1人あたりの料金が安価なクラウド型サービスでも、従業員数が多いと全体の投資額は膨大な金額になってしまいます。ところが、中小企業の場合、従業員数が比較的少ないので、投資総額を抑制することができます。

中小企業で比較的よく見られるのが、デスクトップ型PCで、自宅には持ち帰れないというケースです。また、重要データが入ったPCを、セキュリティの関係で自宅に持ち帰れないというケースもあります。自宅から会社のPCを使うことができればテレワークが実現します。それでは、どのようなツールを使えばよいのでしょうか?

日本テレワーク協会や東京都が推奨するツールのなかには、個人が所有するパソコンにUSBを差し込むだけで、会社のパソコン画面が転送されて使えるようになるものもあります。データは自宅のパソコンには保存されず、情報漏洩が防げるので、リモートアクセスとテレワーク実現のため、大変人気があるクラウド型リモートアクセスサービスです。

中小企業には、このようなテレワークを実現するために必要なツールに関する情報が浸透していないことが課題だと感じています。私は、このようなツール類まで踏み込んで、中小企業の経営者が抱える不安を払拭し、助成制度などの活用を含め、中小企業をきめ細かく支援することで、テレワークが定着していくと考えています。

「ワークスタイル変革コンサルティング」
もう少し中長期的な助成では、東京都のワークスタイル変革コンサルティング制度があります。「在宅勤務を導入したいが、どこから手をつけたらよいかわからない」「制度はできているが上手く使いこなせていない」、という東京都内で事業を営む中小企業を対象に、2020年4月2日から募集がはじまった東京都の「令和2年度ワークスタイル変革コンサルティング事業」。この事業は、テレワークの導入・定着を目的としているので、制度導入済みの企業でも利用できます。

なお、このコンサルティングを受けておくと、テレワークの環境整備に必要な助成金「はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助事業)」の申請ができるようになります。東京都の新型コロナ対策の「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」(申請の締め切り:2020年5月12日)に間に合わなかった企業も活用できる制度です。

ワークスタイル変革コンサルティングでは、専門コンサルタントが以下のような悩みに無料で、最大5回まで答えてくれます。電話やWeb会議でのサポートも可能です。
*在宅勤務、どこから手をつけてよいのかわからない
*自社に向いているセキュリティ対策とかツール活用は?
*就業規則やテレワーク規程について教えてもらいたい
*助成金がいろいろあって違いがわからない
*制度は入れたが、上手く活用できていない

国の「テレワーク」助成制度
「厚生労働省:新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース」
コロナ対策のために、「テレワーク」の新規導入に取組む中小企業を対象にした助成制度で、上限額100万円、補助率50%です。(申請の締め切り:2020年5月29日)

「総務省令和2年度テレワークマネージャー相談事業」
総務省による、全国の中小企業・団体向けの無料コンサルティング(相談実施期間:2020年4月1日~2021年3月31日)

日本テレワーク協会では助成・補助関係の情報をまとめて開示
これらの助成制度は、自治体や官公庁の組織単位でおこなわれているので、助成制度全体を一覧的に見ることが困難です。一般社団法人 日本テレワーク協会では、下記のURLに助成・補助関係の情報をまとめています。

「テレワーク」に関するさまざまな助成制度を有効に利用してください。

5.  これからテレワークの導入や推進を考える中小企業の経営者へのアドバイス

テレワークをスタートした企業の現場からよく聞かれるのは、「ストレスを感じる」という声です。今までは会社に出勤することが前提になっていたのが、突然自宅での勤務になる。しばらくすると、会社に行かないとできない仕事も出てくる。子どもが自宅にいて、お客さまに電話するタイミングがつかめないなど、在宅勤務にネガティブな印象を持つ経営者や従業員が案外多いのです。

テレワークで華々しい成果を上げている企業でも、1週間や1か月では成果が出ることはありません。テレワークでハッピーな結果を得られるようになるには、数か月から1年程度の期間が必要なのです。特に、ウイルス対応のためにはじめてテレワークを突然導入した企業ならば、すぐにうまく行くはずがないのです。

テレワークの導入当初は、成功までの助走期間と考え、失敗もよい経験になると考えましょう。最初の1年は、新型コロナウイルスの感染収束後(アフターコロナ)の働き方をよくするための材料を集めている期間であって、ペーパーレスやファイルやフォルダーの管理、個人情報の管理などの基本的なルール作りを考えるべき時期なのです。

導入、定着の成功には助走期間が必須です。助走期間にストレスがあるのは当たり前で、テレワークがうまく行くために避けて通ることができない道筋だと、前向きに考えることや、助走期間中に出たさまざまな課題が、従業員からのクレームだと思わないで、何が不都合かを積極的に深掘りする姿勢が重要です。テレワークで成功した企業に共通することは、試行期間中に出た従業員の声をはね返すのではなく、これから改善するときの材料に利用できるように、アンケートなどでの形で社員の意見・生の声をしっかり拾って明文化しています。これらの声が、定着段階での宝物となります。

さまざまな現場でテレワークの導入から定着までを見届けましたが、企業における「テレワーク」の仕組み・制度は、スペインのバルセロナにあるサグラダ・ファミリア教会のようなもので、時間をかけて完成に向かいながらも、時代や社会情勢と共に変化するものだと考えています。社会情勢の変化、価値観の変化、ツールの進化に合わせて長期戦で臨む覚悟が、経営者に求められています。テレワークは、時代と共に常に変化するもので、完璧なものはないという心構えさえあればストレスは軽減されます。

これからの「テレワーク」
2019年頃からワーケーション:Work+Vacationという言葉が使われるようになりました。
長期間の休暇のなかで、数時間または数日間は業務をこなすという考え方です。仕事と休暇を両立させるのです。専門家の間では、2020年にコロナ対応問題が無ければ、ワーケーションがホットな話題になるといわれていました。テレワークは、自宅からサテライトオフィス、さらに田舎の実家などと、働く場所が拡大され、リゾートでも仕事を行えるようになるでしょう。さまざまな地域の人との新たな人間関係を構築しながら、これまでの拠点以外の場所でも仕事をするという考え方です。

火山の噴火による広範囲の降灰、巨大地震による大都市の機能停止、風水害の被害の甚大化など、自然災害だけを考えてもテレワークの重要性は、今後より一層高まると考えられます。一人ひとりが、どこでも仕事ができるように身軽になっておくこと、テレワークにいち早く取組み、スモールスタートで「試す」、段階的に「広げる」ことは、中小企業がテレワークを成功に導く秘訣ではないかと考えます。

※当コラムの情報は、2020年4月時点のものとなります。

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