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AIやロボット、新型コロナの影響で日本人の働き方は大きく変わりつつあります。刻々と変化していくこの時代、企業や個人は何をすべきなのでしょうか。神戸大・大内伸哉教授に聞きました。
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人材不足の大波を乗り切るには、制約がある従業員が働きやすい職場をつくることが肝要です。前回は、最初に経営者がその意志を職場全体に宣言する必要性を伝えましたが、この考えは、制約を持つ本人にも伝えることが大切です。
これまでの慣習として、「仕事とは、万難を排して一目散に向かうこと」という考えが根強くあるため、子育てや親の介護、病気の治療などで仕事に全精力を注げない人は、職場にとってお荷物ではないかという考えを持ちやすくなります。周囲に自分の仕事を認めてもらえないという負のレッテルを感じることもあります。ソーシャルワークでは、心身の障害や貧困など集団の中で何らかの劣等感を抱くことを「スティグマ」(烙印)と言い、こうした負のレッテルを感じることも指します。
スティグマが増長すると、離職やメンタル不調、思わぬ仕事上の事件や事故につながる可能性が出てきます。また、組織での自分の存在を低く見てしまい、自ら活躍することを制止してしまいがちです。インクルージョンマネジメントは、多様な人が活躍するためのマネジメントです。言い換えれば、制約があることが活躍しない、または活躍できない理由にならないマネジメントでもあります。スティグマを持たないようにさせることも、経営者の仕事です。それを伝えていくためには「アナセンの3原則」が役に立つと考えます。
アナセンの3原則とは、デンマークの福祉大臣も務めたベント・ロル・アナセンが1982年に高齢者福祉の原則として「継続、自己決定、残存能力活用」を唱えたものであり、できる限り自分の力で生きる力を獲得するという考え方が根底にあります。(*1)
制約を持った人材と高齢者とに、どのような共通点があるのかと思うかもしれませんが、実際には両者とも誰かの支援を必要としているにも関わらず、支援を受ける状況に申し訳なさや劣等感(=スティグマ)を抱えやすいという意味では共通しています。
ここで大事な点は、申し訳ないという思いを払拭させることです。そして、離職させない会社側の努力(継続)、制約がある中でも自らのキャリアを決めていくことで生まれるエンパワメント(自己決定)、例えば保育園のお迎えがある中でこそ短時間で効率的な業務推進能力が高まるといった、制限があるからこそ育まれる能力開発(残存能力活用)が活躍を促すために注視すべき大事な要素になると考えます。
制約を抱えることが活躍できない理由にならない組織をつくり、それを言い訳にしない従業員が増えていくことが、健全な組織経営につながります。
事情を抱えた従業員は、「フルタイムで仕事をすることができない」「急に休まなくてはならない場合が出る」「一時的に体力が下がる」など、いくつかの制約が出てきます。その場合に備え、あらかじめ円滑に業務が回る組織にしておけば、戦力の低下を免れることができます。
制約のある従業員がいても円滑に業務が回る方法として、以下のような対応策があります。
「効率化」
組織全体の時間的効率化は大切です。無駄な会議を減らす、社内資料作成を減らす、例え数分でも無駄な業務を減らすなどの取り組みにより業務時間の短縮を徹底します。これらは、働き方改革を推進するにあたって最初に取り組むことが多いテーマでもあります。
「タスクの細分化とマルチタスク(多能工)化」
ひとりの従業員の抱えるタスクを細分化し、具体的に何をしているかを分類していきます。細分化した主要なタスクは、ひとりだけが分かる状況をなくして複数人で具体的内容を共有します。
「可視化」
抱える業務の全体像を図や表にする、詳細な作業はマニュアル化するなど、他の人が見て理解できるように準備し、あらかじめ説明する機会を設けます。
「評価方法の見直し」
時間的な制約によりできなくなった業務を負担したスタッフを評価する仕組みや、人事考課や報酬に組み込む方法を考えます。実務時間の長さではなく成果による評価を中心とすることで、制約がある人でも意欲が持てる状況を作っていきます。
こうした取り組みは、制約を抱える従業員のためになるだけではありません。担当者不在の急な対応ができる、休みが取りやすくなる、無駄を省き残業を減らすなど、組織全体の働き方改革の具体策にもなります。
制約を持った社員は、それぞれが固有の問題を抱えています。その問題が大きくなることで、働き続けたくても続けられない場合が出てきます。しかし、問題の多くは辞めなくても解決できることが多いのも事実です。解決のためには、できるだけ早期に問題を見つけていくことが必要となります。
例えば、同居する親が認知症と診断され、今後に不安を抱える従業員。介護と仕事の両立は困難ですが、働き続けることは可能です。例えば、認知症の中核症状や周辺症状の違いや、幅広く相談できる地域包括支援センターの利用方法、介護保険の仕組み、介護老人施設の種類や料金など、あらかじめ適切な情報と社会サービスへの接続ができれば、症状が進行して四六時中の見守りが必要になっても、離職しないですむのです。
制約がある中での適切な働き方を話し合えるのは直属の上司や経営者ですが、従業員もプライベートなことになるとなかなか言い出しにくいのが事実です。しかし、しっかり話してもらわないと適切な働き方を考えていくことができません。そこで、従業員が話しやすい状況をつくるためには、ソーシャルワーカーマインドが役立ちます。ソーシャルワーカーマインドは、相談を受ける側の基本的な考え方であり、以下の「基本認識」「志向」「姿勢」「哲学」の4つに分類されます。
<ソーシャルワーカーマインド(相談を受ける側の考え方)>
「基本認識」ワークライフは複雑につながっていると考えること
「志向」解決に導いていくことを目的に伴走すること
「姿勢」相手の気持ちを主体に対等な立場で向き合うこと
「哲学」全ての人が強みと弱みを合わせ持っていると考えること
従業員が抱える問題について話す時は、たとえ仕事上の上下関係が上であっても、相談を受ける側が本人を主体に寄り添っていくことが必要です。
従業員の抱える問題を、経営者が一人ひとりから聞き出していくことは容易ではありません。それだけでも大きく時間を割かなければなりませんし、ワークライフ全般の問題解決につながるような専門的ノウハウも持ち合わせていないのも実情でしょう。従業員自身も、評価者でもある上司や経営者に、負の要素ともなる話題は伝えにくいものです。
しかし、解決が先延ばしになると問題は大きくなります。そこで、早期に問題を見つけ解決していくためにも様々な働き方をサポートするツールの活用によって社員が相談しやすい環境をつくっていくことも重要です。とはいえ、経営者や管理職だけでそうした問題発見・解決を図ることには不安も大きいでしょう。その際には、専門家を活用してみてはいかがでしょうか。
個々のワークライフ全般の相談を受ける「人材ケア」の専門家として産業ソーシャルワーカーがいます。マネジメント、キャリア、子育て、介護、疾病、人間関係、トラブル、金銭問題などあらゆる問題に対応し、分野を選ばない幅広い知識と気軽な相談対応により、問題を早いうちから見つけて解決します。離職やメンタルヘルス不調、事件・事故の予防を可能とし、これまで相談を一手に引き受けてきた経営者や管理職を支援します。抱える問題が気になり仕事に集中できなくなる状況を減らすことで、生産性の向上も図ることができます。
こうしたサポートも参考にしながら、制約がある従業員が活躍できるよう様々な取り組みを進めていっていただきたいと考えます。
著者:皆月 みゆき(みなつき・みゆき) 一般社団法人産業ソーシャルワーカー協会代表理事、株式会社インクルージョンオフィス代表、武蔵野大学客員研究員
日本ではじめて「産業」と「ソーシャルワーク」を繋げ、全国組織として展開。働く個人の問題を解決する産業ソーシャルワークの事業化も推進。2017年、共著『働き方改革 個を活かすマネジメント(日本経済新聞出版社)』を出版し、ベストセラーとなる。社会福祉士、ケアマネジャー、介護福祉士など保有資格多数。
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