2018年3月26日

【第1話】インクルージョンマネジメントと人材ケア(皆月みゆき)

子育てや介護など、様々な事情を抱える人材が「働きやすい」職場とは?働く個人の問題を解決する産業ソーシャルワークの事業化も推進する筆者が新たな視点から解説します。

1. 人材不足の波

企業の人材不足が深刻になっています。2018年1月30日に厚生労働省が発表した2017年の有効求人倍率(*1)は、前年比0.14ポイント増の1.50倍となりました。これは1973年以来44年ぶりの高水準です。同日に総務省が発表した完全失業率(*2)は、0.3ポイント低下の2.8%でした。ここしばらくなかったような高い有効求人倍率の中で、完全失業率が下がっているということから、企業の人材確保が難しくなっているという状況がはっきりと見て取れます。

この傾向は、中途採用の状況にも表れています。「中途採用実態調査(リクルートワークス研究所 2018年)」によると、2017年度上半期は、中途採用人員を「確保できなかった」企業が「確保できた」企業を上回っています。2013年上半期からの推移を見ると、確保できた割合が下がり続ける一方で、確保できなかった割合が上がり続けており、今回はじめて確保できなかった企業の方が多くなりました(図1)。ここでも、必要な人材が採用できていない状況が分かります。

図1 中途採用における人員の確保 経年比較

また、東京商工リサーチが発表した2017年の倒産件数(*3)は、「求人難」による倒産(*4)が前年より2倍に増えています。全体の前年比倒産件数は減少しており、種別では「従業員退職」による倒産が微増、「人手不足関連倒産」は前年並みで推移、「後継者難」「人件費高騰」による倒産は減っている中で、この「求人難」による倒産だけが目立って増えている状況と言えます。

人材難の影響を最も大きく受けるのが、日本の総従業員数の7割を占める中小企業です。この先、さらに人材不足の深刻度が増すと言われている中で、中小企業こそ早めに人材確保の対策を講じる必要があります。

図2 人手不足関連倒産月次推移

  • 出典: 「「人手不足」関連倒産(2017年)」(東京商工リサーチ)
  • ※東京商工リサーチによる「人手不足」関連倒産(2017年)によると、内訳は「後継者難」型が249件(前年比7.4%減、前年269件)、「求人難」型が35件(同105.8%増、同17件)、「従業員退職」型が18件(同5.8%増、同17件)、「人件費高騰」型が15件(同34.7%減、同23件)とあり、「求人難」型の倒産件数は2倍であった。
2. 制約がある人の能力を活かす

しかし、悲観することはありません。人材確保が難しいと言われ続ける中でも、先手を打った中小企業は人材確保に成功しています。
その鍵となる考えとして「インクルージョンマネジメント」があります。

「インクルージョン」とは、多様な人材が、個性を活かして成果を上げる状況を指します。これまで一般的に、強い人材と弱い人材(または優秀な人材とそうでない人材)という分け方をしがちでしたが、インクルージョンマネジメントでは、どのような人であろうとも、長い職業人生の間にはさまざまなイベントがあり、また一人ひとりが業務内容によって強み・弱みがあります。互いが強みを活かしあい、支え合うことが組織全体を強くします。ドラッカーが「強みの上に築け!」と言った背景も、誰もが何らかの強みを持っているからであり、余計な人材などいないのです。

仕事を制約せざるを得ない「事情」を持った人が働きやすい環境を提供し、積極的に採用して、就労が継続できる状況を用意することが、現在の人材不足を解消することに繋がると考えます。ここで言う事情とは、出産、子育て、介護、高齢、障害、慢性疾患などです。事情を抱えた人は、能力が低いのではなく、毎日働けない、時間短縮した中でしか働けないなどという制約があるだけで、持てる能力は、制約があろうとなかろうと変わらないのです。

むしろ制約があるからこそ、限られた時間の中で頑張ろうとすることがデータ(*5)で示されています。例えばがんに罹患した人は、罹患後1年間は41%が時短勤務などを必要としますが、数年後には22.8%に減り、8割近い人がフルタイムで働けるようになります。そして、その時短勤務の間に79.7%もの人が「短い労働時間でも高い成果を出すように意識をしている」と答えています。

また、『働き方改革 個を活かすマネジメント(大久保幸夫、皆月みゆき著 日本経済新聞出版社)』でも触れていますが、出産や子育てを経験した人は、時間管理能力や段取り力、忍耐力、包容力など仕事を推進していく上で大切な能力を兼ね備えやすいと言えます。60歳以上のシニアも、これまで培ってきたノウハウを若手に継承し育成していく能力が発揮できる可能性を持ちます。

能力はありながらも制約があることで、就労できない、または就労が継続できないとしたら、非常にもったいない状況と言えるでしょう。一人ひとりの従業員の生産性は、潜在能力を引き出すことを阻害している要因を取り除くことで高めることが可能です。この、阻害要因を取り除く取り組みを「人材ケア」と呼んでいます。多様な人材が活躍できる職場をつくるうえで、今後の大事な人事施策になると考えます。

3. 経営者主体の取り組み

中小企業が人材ケアに取り組む場合に、最初にするべきことがあります。それは、経営者が主体となり職場の理解を促すことです。

働きたくても職場の理解が得られないことは、産業ソーシャルワーカーの私が受ける相談でも、よく耳にします。例えば、保育園のお迎えに行くために、お昼休みを潰してまで仕事を片付けようと頑張り、お迎え時間ギリギリの16時で退社しようとすると、周囲からの非難の目を感じるといった内容です。こうしたことがきっかけで、離職が頭をよぎるのです。確かに、残された業務を抱えた他の従業員は、自分の負荷が増えると感じるかもしれません。しかし、ここを支え合う組織にすることが雇用を安定させ、業績向上に繋がります。まずは、制約がある従業員が働きやすい職場をつくるという決意を、経営者が従業員にはっきりと宣言することが効果的です。

「人は何らかの制約を持って働かなければならない時期があり、明日は我が身で誰が抱えることになるか分からない。それを皆が支え合い能力を活かし合う組織を最優先で作っていく」ということを、折に触れ繰り返し伝えていくことで、徐々に理解が進んでいくのです。

具体的な人材ケアの取り組みについては、第2話で紹介します。

著者:皆月 みゆき(みなつき・みゆき) 一般社団法人産業ソーシャルワーカー協会代表理事、株式会社インクルージョンオフィス代表、武蔵野大学客員研究員
日本ではじめて「産業」と「ソーシャルワーク」を繋げ、全国組織として展開。働く個人の問題を解決する産業ソーシャルワークの事業化も推進。2017年、共著『働き方改革 個を活かすマネジメント(日本経済新聞出版社)』を出版し、ベストセラーとなる。社会福祉士、ケアマネジャー、介護福祉士など保有資格多数。

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