2018年2月5日

【第3話】働く個人が取り組めるストレス対処法(宮川浩一)

メンタルヘルス対策は、企業の取り組みだけではありません。従業員個人が気軽にできるストレス対処法「マインドフルネス」と「アンガーマネジメント」を紹介します。

1. 従業員が自分でできるストレスコーピング

前回は、ストレス対処能力を高める概念として首尾一貫感覚(sense of coherence:SOC)とSOCを高める企業としての取組事例をご紹介しました。今回は、個人が取り組むストレスマネジメントの中で、SOCの向上につながるストレスコーピング(ストレス対処法)を取り上げてみましょう。

以前掲載したコラム「経営者にこそストレスマネジメントが必要である」でも、ストレスコーピングをいくつか簡単に紹介しました。今回はこの中でも近年注目されている「マインドフルネス」と「アンガーマネジメント」を詳しく紹介したいと思います。
SOCを高める要素がいくつかある中で、特に「感情コントロール」「自己効力感」「人間関係」等に効果があるといわれるのが、これら2つの手法です。

2. 瞑想や座禅をベースにした「マインドフルネス」の効果

「マインドフルネス」は、仏教の瞑想や座禅をベースにマサチューセッツ大学のジョン・カバット=ジンによって、1970年代にストレス低減の手法として確立され、その効果については科学的に実証されています。

ゆっくりとした呼吸で行うマインドフルネスは、心身をリラックスさせ、副交感神経の働きを高める効果があります。想像力を広げたり、集中力を高めたりする効果もあるといわれており、世界的IT企業のグーグルをはじめ多くの企業が社員教育に取り入れていることは有名です。私たちは普段、何かをしているときでも無意識に過去を思いだしたり、未来を想像したりしていることがあります。あれこれと過去や未来に心がさまよっている状態を「マインドワンダリング」といって、簡単に言えば“心ここにあらず”のこと。ある調査では、日常の半分は「今」とは関係ないことを考えているそうです。

常に何かを考えてしまうのは人間の特性ですが、実はこれらがストレスの大きな原因になっていると言われています。昨日上司に叱られたこと、明日気の進まないミーティングがあることなど、あれこれ考えることで心に負荷をかけているのです。特に自分ではコントロールできない事象について考えていると、なおさら無用なストレスを抱え込んでしまいます。心を過去や未来に飛ばさず、現在に留めておくことこそが、ストレスをため込まない方法なのです。「今」に意識を向ける。心ここにあらずの状態からハッと気づく。目覚めの状態に戻す。これを自在にこなす技法がマインドフルネスです。

3. 集中力を高める「サマタ瞑想」の実践方法

「今」に集中するのは意外と難しいことですが、マインドフルネスは訓練で誰でもできます。その入り口は呼吸法です。意識的にゆっくりと呼吸をすると、その瞬間の身体に意識を集中することができます。ヨガや太極拳のポーズやスローな動きも、実は意識を身体につなぎ留めておくための工夫なのです。

マインドフルネスには、集中力を高める「サマタ瞑想」と、想像力を広げていく「ヴィパッサナー瞑想」の2つがあります。ここでは取り組みやすい瞑想として「サマタ瞑想」の実践法をご紹介しましょう。

(1) 背筋を伸ばしながらも身体の力が抜けている楽な姿勢をとります。あぐらでも椅子に座ってでも結構です。
(2) 呼吸はゆったりと自然に任せて、できるだけコントロールしないようにします。
(3) 鼻を通る空気の流れやおなかや胸の膨らみ、へこみ等の感覚を感じ取ります。
(4) 何かの雑念、考え、感情に気づいたら、ラベリング(雑念に名前を付けて流すイメージ。例えば「未来への不安」とか「健康の心配」、「仕事」といった名前を付けて流します。)して、雑念や考えることを切り上げて「今」に意識を戻します。

以上のことを、最初は5分~10分くらい、慣れてきたら15分~30分程度やってみましょう。

瞑想をしていると必ず雑念が出てきます。雑念は出てくるのが当然と考えてください。大事なのは、その雑念、考えに引っ張り込まれてしまわないことです。何か考えていることに気づいたら、切り上げて心と意識を「今」に戻すことが重要なのです。

マインドフルネス自体は、心身への直接的な効果を期待するものではありませんが、続けるうちにストレスが減ったり、集中力が向上したりすることを実感できると思います。結果的に、日常生活を健康に送れるようになり、仕事の効率もアップするはずです。

ただし、重要なのは習慣化することです。継続的に実践し、自分の意識を観察する感覚を身につけることが肝心です。コントロールしようとするのではなく、心の動きを観察することで、結果的にうまくマネジメントされることが重要です。慣れてきたら、座って瞑想する以外にも歩行中、食事中、入浴中など、どこでもいつでもマインドフルネスの実践は可能です。ぜひマインドフルネスを生活の一部に取り入れていただきたいと思います。

4. 「アンガーマネジメント」はだれでもできるストレスマネジメント法

次に、感情コントロールの手法のひとつで、近年ストレスマネジメント法としても注目されている「アンガーマネジメント」を紹介します。

皆さんは仕事や日常でイライラしたり、腹が立ったりすることはありませんか。価値観が多様化している現代では、お互いの価値観が認められないことで対立したり、トラブルになったりするケースも増えていますが、これらは「怒り」の感情がもたらした事象と言えるかもしれません。

アンガーマネジメントは、このようなストレスに伴う「怒りの感情」や「行動」の背景にある認知に焦点を当て、自らの力で感情をコントロールできるようになることを目指した認知心理学の理論に基づいた方法です。1970年代のアメリカで、いじめや暴力などの予防教育の一環としてはじめられました。その後は、軽犯罪者への矯正教育、カウンセリング、医療、福祉、産業、スポーツなど様々な分野で発展してきました。

アンガーマネジメントでは、怒ること自体は悪いこととはされていません。怒らなくなることではなく、怒る必要があるときは上手に怒り、必要のないときは怒らなくて済むような状態を目指すのが、アンガーマネジメントです。だれでも訓練すれば習得・習慣化できます。このことを理解してアンガーマネジメントを実践していきましょう。衝動、思考、行動をコントロールすることがポイントになります。

5. 感情をコントロールする「アンガーマネジメント」の実践方法

まず衝動的に反応しないことが重要です。例えば、朝の通勤の満員電車で言い合いや小競り合いの場面に出くわしたとします。きっかけは、ちょっと足を踏まれたとか肘が当たったといった程度のもので、そこからもめごとに発展するようなトラブルです。この時にすぐにカッとしてやり返したり、言い返したりせず、ひと呼吸つく、心の中で「大丈夫」とか「落ち着け」といった言葉をつぶやくことで、少し冷静になって大きなトラブルになることを防ぎます。怒りのピークは数秒といわれていますので、この数秒間に衝動的に反応しないことが重要です。

怒りは突然沸き上がってくるものではなく、「不安」、「痛い」、「疲れた」、「寂しい」、「いやだ」といったネガティブな感情が膨れ上がって、心のキャパシティーを超えたときに怒りの感情につながると言われています。つまり、怒りとは第2次感情なのです。様々なネガティブ感情が蓄積されていると、ちょっとしたことでキャパシティーを超えてしまい、衝動的に反射してしまうのです。これを防ぐには、ネガティブな感情をため込まないことも必要ですが、心のキャパシティーを大きくしていくことも必要です。

6. 怒りの原因となる「コアビリーフ」は人それぞれちがう

では、心のキャパシティーを大きくするには、どうしたらいいのでしょうか。まずは、自分が持っている思考(物事の考え方、捉え方、価値観など)を知ることが重要です。

あなたにとって自分を怒らせる原因は何だと思いますか。それは誰か特定の人でしょうか、それとも何かのできごとでしょうか。実はそうではありません。自分の考え方の傾向や価値観が、怒りの原因を作り出しているのです。自分の持っている思考、コアビリーフ(こうあるべきという思い)が目の前の現実と相いれないときに、怒りの感情が生まれます。仕事のあり方や社会でのマナーなど、守られるべきルールは世の中にたくさんありますが、厄介なのは信じているコアビリーフが人それぞれ違うということです。

例えば、「会議の時間は守るべきだ」と考えている人は多いと思いますが、「少なくとも5分前には会議室にいるべき」という人もいれば「時間ちょうどにいればいい」という人もいます。お互いに思っている程度が違えば、人間関係にも影響が出るかもしれません。

それでは、このコアビリーフとどう付き合っていけばいいのでしょうか。「自分の中で許せる領域」「まあ許せる領域(ここまでが許容範囲)」「許せない領域」という3つの領域があるとすれば、本当に怒るべきなのは「許せない領域」にあるものです。それ以外は怒る必要がないのです。怒ってしまった後に「よく考えるとこんなに怒る必要はなかったな」と後悔する場合は、実は許容範囲のできごとだったのかもしれません。

必要なことには怒り、必要のないことには怒らずに済ませるためには、まずこの「許容範囲」と「許せない範囲」の境界線を意識することが必要です。加えて、許容範囲をできるだけ広げて、許せない範囲を減らすことができれば、怒りの感情にとらわれる機会も減らせます。無理に広げる必要はないですが、できるだけ広げることを意識してみましょう。同時に、広げた境界線を安定化させることも必要です。その時々の機嫌で境界線を変えてしまうと周りが混乱します。

例えば、先週は指定された時間に会議室に行っても何も言われなかったのに、今日は「会議は5分前に来ているのがあたりまえだろ」と課長に叱られた。このケースのように、その時々で言っていることが違うと、言われているほうはどっちなのということになってしまいます。怒りの境界線が安定しないと信頼にも関わりますので、自分でも常に意識しておきましょう。

怒りの境界線は、人に開示することも大事です。先のケースで言えば、会議開始5分前に来てほしければ、事前にそのように伝えておくことが必要です。部下も「5分前に行かなくては」と思うようになるでしょう。このように境界線(会議開始5分前)をあえて見せることで、周りが許せない領域に入らなくなり、イライラしたり、腹を立てたりすることが少なくなるのです。結果的に、自分も周囲も楽になり、ストレスを減らすことができます。

7. 中小企業が目指すべきメンタルヘルス対策とは

3回にわたって、中小企業の経営者やそこで働く従業員が取り組むべきメンタルヘルスを皆さんと考えてきました。

第1回では、中小企業のメンタルヘルス対策の現状について、第2回では、メンタル不調を予防する「0次予防」の方法として、SOCを高める組織的な取り組みを紹介しました。今回紹介したマインドフルネスやアンガーマネジメントは、ストレス対処能力を高めるだけではなく、Well-being(ただ単に健康な状態や心の病がない状態だけではなく、幸福な状態)やその人の生き方にも役立てられる効果的な取り組みです。

中小企業では、大企業に比べてメンタルヘルス対策が遅れている傾向がありますが、従業員の心の健康を保つ試みを推進することは、結果的に生産性や業績の向上にもつながります。メンタルヘルス研修というと「ラインケア」(上司が部下に行う相談対応や職場環境改善等の取り組みによるケア)や「セルフケア」(「自分の健康は自分で守る」という考えに基づき、そのために必要な知識、技法を身につけで実施するケア)といったピンポイントの研修が一般的です。このような研修も大事ですが、一過性に終わってしまうケースが多く見られます。大企業に比べ、経営基盤の弱い中小企業では、限られた人材や資源、時間を有効に活用することが必須。企業業績とメンタルヘルス両方に寄与する取り組みが重要です。

本コラムで紹介したような内容は、まさにそれに当たります。まずは、人材・組織開発等を活用しながら職場風土を改善し、そこで働く人たちも自発的、意識的にストレスコーピングに取り組むよう、啓発していきましょう。組織と従業員、双方が「幸せな働き方」をつくっていくことが、中小企業が目指すべき真のメンタルヘルス対策ではないかと思います。

  • (参考資料)
    ▶ アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)2016年 安藤俊介
  • ▶ 実践! マインドフルネス―今この瞬間に気づき青空を感じるレッスン(サンガ)2016年 熊野宏昭

著者:宮川 浩一(みやがわ・こういち) (株)ネオシステムEAP事業部長 国際EAPコンサルタント(CEAP)
組織開発や職場環境改善を通じた0次予防のメンタルヘルス対策を推進。組織コンサル、経営者・従業員へのコーチング・カウンセリング、企業研修・各種セミナー等を通じたEAPサービスを提供している。また、筑波大学大学院においてストレスマネジメント研究に携わり、現在もストレス対処能力を醸成する中核概念であるSOC(首尾一貫感覚)の介入研究に取り組んでいる。

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