2018年1月9日

【第1話】中小企業こそメンタルヘルス対策を(宮川浩一)

従業員のメンタルヘルス問題は、中小企業にとっても取り組むべき課題のひとつ。 人材不足やコスト不足を補いながら有効なメンタルヘルス対策を実施する方法を紹介します。

1. 中小企業のメンタルヘルス対策の現状は?

現在、多くの職場においてハラスメントや過重労働などを起因としたメンタルヘルス問題が取り上げられるケースが増えています。「働き方改革」が叫ばれ、職場環境改善やストレスチェックの実施などに取り組む企業も増えてきました。企業における健康管理、とりわけメンタルヘルス対策の重要性が認識されつつあります。

ところが、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、全体で56.6%(2016年労働安全衛生調査)に過ぎません。大企業の90%以上は、何らかのメンタルヘルス対策を行っているとされています。しかし、全国の企業数の99%、総従業員数の70%を占める中小企業では、企業規模により30%~70%程度と十分なメンタルヘルス対策が行われていないのが実情です。

ちなみに、中小企業が加入する全国健康保険協会の傷病手当金の支給(2016年度実績)においては、「精神および行動の障害」が27.6%で最も高く、ついで「悪性新生物(ガン)」(19.75%)、「循環器系の疾患」(10.21%)となっており、従来トップだった悪性新生物を抜いて増加の一途にあります。 限られた人材に頼る中小企業にとって、大企業以上に経営へのリスクインパクトが大きくなっていると言えるでしょう。

例えば最近の傾向として、ハラスメントや過重労働など職場が原因とされる精神疾患で自殺などに至った場合、安全配慮義務違反などを問われ、労災から訴訟に発展することも多く、多額の損害賠償請求を求められるケースも増えています。これは中小企業だからといって例外ではありません。大企業では時に数千万~億のお金を支払ったケースをよく耳にしますが、中小企業ではどうでしょうか。このような高額の支払いが発生すれば、倒産せざるをえない企業も少なくないでしょう。損害賠償金額は、企業規模、支払い能力に関係なく決定されます。このようなことからも、企業、とりわけ中小企業におけるメンタルヘルス対策は喫緊の課題となっているのです。

2. 中小企業がメンタルヘルス対策に取り組まない理由

筆者の関わっている企業、中でも中小企業においては、問題が発生してから場当たり的にしか対応してこなかったために、深刻なケースに陥っている企業も少なくありません。特に50人未満の事業所では、労働安全衛生法上の産業医や衛生管理者の選任も「努力義務」にとどまっているため、事前の対策が十分行われていない企業がほとんどです。メンタルヘルス不調者が発生してから対応に苦慮する、という状況が少なからず見受けられます。

中小企業において、メンタルヘルス対策に取り組んでいない理由として、メンタルヘルス不調者の発生頻度や経営者・人事総務責任者の認識不足などから、「必要性を感じない」という回答が多く見られます。その他、「どう対応していいかわからない」、「専門人材がいない」、「コストがかかる」といった回答が多く、人材や財政的に余裕のある大企業と同レベルの対応が難しい環境があることが伺えます。

特に要注意は「必要を感じない」です。多くの大企業は、人員の多さから常に一定の割合のメンタルヘルス不調者が顕在化しています。そのため、発生したときの体制・対応方法やルール、手続きなどの仕組みができており、ある程度それが機能しています。一方、中小企業の場合は、大企業に比べ人員が少ないため、メンタルヘルス不調者が発生する割合も少なくなります。結果として、顕在化している不調者がいない状況では、取り組みの必要性を感じないのです。

しかし、いざメンタルヘルス不調者が顕在化したら、何の準備もないままでは、どのように対応してよいかわからず、問題は大きくなるばかりです。加えて、メンタルヘルス対策に取り組んでいない状況では、未然防止の意識が薄く、潜在的なメンタルヘルス不調者を抱える温床にもなりやすいと言えます。

3. 中小企業だからこそできるメンタルヘルス対策もある

中小企業のメンタルヘルス対策は、専門の人材不足をどう補うかがポイントです。経営者や人事総務の担当者が抱えなくてはならない「メンタルヘルス対策をどうするか」という課題を、誰かが一緒に考えていくことが必要です。

それには、専門家の助言が効果的です。中小企業だからこそ使える資源をうまく利用すれば、費用をかけずにある程度の対策も可能です。例えば、50人未満の事業所の場合、地域産業保健センターでは、健康診断結果についての医師の助言や指導、メンタルヘルスを含む労働者の健康管理についての相談、長時間労働者面談などが依頼できます。産業保健総合支援センターでは、メンタルヘルス対策の進め方や体制構築の相談、研修、職場改善の助言、地域の相談機関の情報提供など、一定の範囲で無料サービスが受けられます。

ただし、場当たり的に対応しても「やりました」という実績だけで、対策が有効に機能するわけではありません。まず、メンタルヘルス対策の全体像を明確にして優先順位を決めて対応していくことが重要です。それにはまず、各種社内ルールを確認、整備することから始める必要があります。メンタルヘルス対策の社内ルールについては、厚生労働省やWeb等で公開されているひな形等もありますので、これらを活用することで負荷を軽減できます。ルールがあれば、その上で、相談窓口、従業員の意識づけ、職場環境の改善と、順次進めていくことで取り組みがスムーズに関連づけられ、より実効性のある対策となります。

このように、中小企業だからこそ使える公的機関などの事業場外資源を積極的に活用しながら、効率的にメンタルヘルス対策の仕組みをつくり、必要な時には個人のカウンセリングや地域の医療機関で相談できるところをつくったり、 EAP(Employee Assistance Program 従業員支援プログラム)機関などを通じて必要なサービスだけ有料で利用することもよいでしょう。

4. 中小企業こそ2次・3次予防から0次・1次予防へ

そもそも中小企業で重要なのは、企業体として、どのように限られた資源を活用し、生産性を上げ、成長していけるかということです。しかし、一度休職者などが発生すると経営への影響は計りしれません。中小企業にとって社員の不調は損失そのもの。事業のためにも会社の将来のためにも、「不調者を発生させない」という意識が大切です。

中小企業の取り組みのひとつとして、1次予防、0次予防という考え方が挙げられます。3次予防(職場復帰と再発防止)や2次予防(早期対処と受診勧奨)よりも、1次予防(早期発見と職場調整)に重点を移し、さらに0次予防と呼ばれる健全な組織運営が行われる職場風土づくりに取り組む。これこそが、中小企業においては最も重視すべきメンタルヘルス対策と言えます。

0次予防とは、職場の生産性向上や業績アップに加え、結果としてメンタルヘルス不調者の発現を抑え、自然な形でのメンタルヘルス対策を可能とするような取り組みを言います。中小企業の特性として、大企業と比べて社員同士の関係が近いという利点が挙げられます。良好な人間関係が醸成されている職場ではメンタルヘルス不調者は発生しにくいものです。社員同士の距離が近い分、人間関係がマイナスに働くと、逆に逃げ場がなくなるので注意が必要ですが、利点を生かし、職場環境改善や組織開発を通じて「働きやすい職場風土・文化づくり」に取り組んでいくことも、中小企業に必要な対策のひとつです。

次回は0次予防のための「効果的なメンタルヘルス対策」をご紹介していきたいと思います。

著者:宮川 浩一(みやがわ・こういち) (株)ネオシステムEAP事業部長 国際EAPコンサルタント(CEAP)
組織開発や職場環境改善を通じた0次予防のメンタルヘルス対策を推進。組織コンサル、経営者・従業員へのコーチング・カウンセリング、企業研修・各種セミナー等を通じたEAPサービスを提供している。また、筑波大学大学院においてストレスマネジメント研究に携わり、現在もストレス対処能力を醸成する中核概念であるSOC(首尾一貫感覚)の介入研究に取り組んでいる。

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