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2019年9月30日

第4次産業革命“発祥地”の今を覗いてみる

ドイツ政府の「Industry 4.0」構想発表を契機にはじまった各国での第4次産業革命の取組み。実際ドイツではどのような試みが行われているのでしょうか。その一端をご紹介します。

1.  安定成長ドイツの経済

日本の製造業は、名目GDP(*1)のおよそ20.8%(2017年)を占める基幹産業です(*2)。それはドイツにおける製造業の位置づけも同様で、国際連合のデータ(*3)によると、ドイツの製造業は、同国の名目GDPのおよそ23%強を占めています(2017年時点)。

そしてドイツが国を挙げて推進しているのが、「Industry 4.0(インダストリー4.0)」の取組みです。

Industry 4.0とは、18世紀末の産業革命「Industry 1.0」を起点に、20世紀初頭の電力を用いた大量生産を「Industry 2.0」、1970年代以降のITによる自動化(オートメーション化)を「Industry 3.0」と定義し、その次にくる産業革命を表しています。この“革命”の中心にあるのは、情報とITです。たとえば、IoTなどによって製造企業の生産設備や生産プロセスをネットワーク化して、製品のバリューチェーンを最適化していくことが、Industry 4.0のめざすところといえます。

ドイツ政府が、ハイテク戦略の一環としてIndustry 4.0の構想を発表したのは2011年のことです。それを受けたかたちで産官学の連携でIndustry 4.0を推進する母体「Platform Industry 4.0(プラットフォームインダストリー4.0)」が2011年に組織され、今日に至っています。また、こうしたドイツの動きに触発されるように、米国の「Industrial Internet(インダストリアル インターネット)」や中国の「製造 2025」、そして日本の「Connected Industries(コネクテッド インダストリーズ)」など、いわゆる「第4次産業革命」の動きが各国で活発化しました。つまり、ドイツは第4次産業革命の“発祥地”であるともいえるわけです。

そのドイツでは、ここ数年来、安定した経済の伸びを示しています。国際通貨基金(IMF)レポートによれば、ドイツ経済は良好で、直近5年間(2014~2018年)においても、実質GDPの年間平均成長率は2%に近づいています(日本は0.98%/*4)。

図1:ドイツと日本の実質GDP成長率推移 2013年-2018年

また、日本生産性本部によると、2017年におけるドイツの名目GDPは3兆6,932億ドルで、日本の4兆8,604億ドルを1兆円ドル以上下回ります。ただし、労働者一人あたりの労働生産性については、ドイツは10万940ドルで日本の8万4,027ドルを上回っています(*5)。

このように、労働者の一人ひとりが多くを生産しているのであれば、それぞれの労働時間も長そうに思えますが、実際は違います。OECD(経済開発協力機構)のデータを見ると、ドイツ労働者の労働時間は主要7か国(G7)のなかで最も短く、2017年における労働者あたりの年間総労働時間は1,356時間です。これは、日本の労働者(1,710 時間)よりも354時間も短いです(*6)。この数字を見るかぎり、ドイツの労働者はかなり効率的に働いているといえそうです。

ちなみにドイツの場合、失業率も低水準で2018年も3.4%と、日本(2.4%)の低さにはおよばないものの、米国(3.9%)や英国(4.0%)を下回っています(*7)。

そのドイツが、製造を中心とした産業の一層の効率化・合理化、そしてコスト競争力のアップをめざして推進しているIndustry 4.0。この第4次産業革命の取組みは、発祥地である同国に、どの程度まで浸透しているのでしょうか。

それを知るうえで参考になる資料が、日本の経済産業省の「2018年版 ものづくり白書」(以下、「白書」と呼ぶ/*8)です。白書では、Industry 4.0に対するドイツ企業の対応状況が実例を交えて紹介されています。次ページでは、その要点をまとめてご紹介します。

2.  当初ドイツの中小企業は消極的だった

「第4次産業革命の発祥地ならば、すべての企業がITによる現場の効率化・合理化に積極的で、かなりのレベルまで“革命”が進んでいるに違いない」──。日本にいる私たちは、そう考えがちです。しかし白書の内容を見ると、実情は少し異なるようです。

先に触れたとおり、ドイツと日本はともに製造が基幹産業で、全企業の 99%以上を中小企業が占めている点でも両国の産業構造はかなり似ていると白書は指摘しています。そのなかで大きく異なるのが、ドイツの中小企業の方が、日本の中小企業に比べて海外進出に意欲的な点です。白書によると、2010年の時点で、国の全輸出額に占める中小企業の割合は、日本が 2.8%なのに対して、ドイツは 19.2%だったといいます。

ドイツ政府がIndustry 4.0を打ち出した一つの理由は、こうした中小企業のIT化(デジタル化)やネットワーク化を推し進めて、当時急速に台頭してきた新興国に対抗できるコスト競争力を自国の中小企業に手にしてもらうことにあったといいます。

ところがドイツの中小企業は、グローバル化には熱心でも、デジタル化やネットワーク化にはそれほど積極的ではなく、それがドイツ政府の悩みの種であったようです。

その状況を打開するために、ドイツ政府では、2015 年から「Mittelstand 4.0(ミッテシュタンド4.0/中小企業4.0)」という政策を打ち出し、ドイツ全土に中小企業のデジタル化/ネットワーク化を支援する施設を設置する取組みをスタートさせました。また、中堅クラスのIT企業とベンチャー企業を相互につなげ、中小企業に対して革新的なソリューションを提案・提供させるという試みも開始しています。

こうした施策もあり、ドイツの中小企業の間でも、製造業を中心にIndustry 4.0のコンセプトに沿ったデジタル化/ネットワーク化の先進的な取組みが見られはじめているようです。その具体的な例を示すために、次ページからは、白書に掲載されているドイツ中小企業の事例をいくつかご紹介します。

3.  独・中小企業のIndustry 4.0成功例

①創業80年強のメーカー A社

1つ目にご紹介する事例は、従業員約90名/創業80年強のドイツのメーカー、A社(仮名)の例です。空気圧機器/関連部品の製造・販売を手がける同社では、そこから派生させた新たなビジネスとして、コンプレッサーから工場のパイプラインに送られるエアー漏れの点検を効率化するタブレット用アプリの開発・提供に乗り出しました。

白書によれば、エアー漏れの点検作業では、多くの時間と手間が点検後のデータ入力とレポート作成に費やされているといいます。ドイツの工場の保守作業員は通常、エアー漏れを探知機で点検して点検内容を用紙に手書きで記入し、のちに事務所の自席に戻って記載内容をパソコンに入力(転記)して、レポートを作成しているようです。

それが、A社のアプリを使うことで、エアー漏れ探知機で点検した内容の入力からレポート作成までの作業が大幅に効率化されるとのこと。たとえば、工場内のどの位置の、どのパイプラインにエアー漏れがあるかのデータ入力も、パイプラインの各所に取付けたQR コードを読み取るだけで簡単に行えるとされています。また、このアプリではレポート作成を効率化できるだけではなく、修理を要する場所を可視化し、アプリから直接専門家に修理依頼する機能も備えています。

このアプリのおかげで、A社の顧客は一気にグローバルに拡がったといいます。さらにA社では、このアプリを通じて収集した顧客企業のコンプレッサーに関するデータを、専門家による高度なエアー漏れ検知と分析サービスに活用しています。

②創業80余年のギヤモーターメーカー B社

一方、創業80余年の歴史を持つギヤモーターメーカー、B社(仮名)では、組立て/ピッキング/工場内運搬を支援するロボットによって、工場の生産効率を従来比で30%以上高めているといいます。この会社は、優れた中小企業に贈られるドイツのアワード「the SME Award Hidden Champions」(*9)にも選ばれた企業です。

*9 the SME Award Hidden Champions:知名度が低く規模も比較的小さいものの、世界市場、または各地域市場においてシェア上位に位置し、世界をリードする企業に贈られるドイツのアワード。

B社の工場で働くロボットのうち、運搬を担う「AGV(無人搬送機)」は、工場の倉庫と、製造ラインの組立てチーム、および組立てチーム間での原料・仕掛かり品の移動に使われています。このAGVは周辺をスキャニングする機能と、スキャンデータなどの情報を自ら処理し、自身の制御に使う機能を持っています。そのため、ロボット同士での協調動作が可能であるほか、ヒトを認識すると自動で減速したり、移動方向を変えたりすることができるといいます。また、別のロボットである組立支援ロボットは、工程の各ステップに合わせて機器を移動させたり、作業台の高さを調節したりといったサポート業務を担い、さらに別のロボットは、倉庫での簡単なピッキング/配置の作業を担っています。

B社の工場では、こうしたロボットとロボット、ロボットとヒト、さらには各種製造装置と生産管理システムの連携によって、受注生産型のカスタマイズ製造の高効率化を実現していると白書では説明しています。加えて、B社では、VR(Virtual Reality/仮想現実)とAR (Augmented Reality/拡張現実)の技術を、作業者が組立て手順を確認したり、完成品をシミュレートしたりするために活用しているようです。

いかがでしょうか。どの取組みも先進的です。とはいえ、各社のデジタル化に関する取組みはすべて追いつくのに何年もの歳月を要するというものでもないようです。また、前述したとおり、ドイツでは中小企業、あるいは中小ものづくりの第4次産業革命はまだはじまったばかりの段階にあります。その意味で、第4次産業革命の取組みにおいて、ドイツと日本の中小企業に大きな開きがあるわけではなく、ものづくりのデジタル化/ネットワーク化の領域で、日本の中小企業が世界の中小企業をリードすることになる可能性も大いにあるといえそうです。遠い別の国の情報として聞き流すのではなく、共通点のある好例と捉え、ぜひご自身のビジネスや業務のなかに学びを活かしてはいかがでしょうか?

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